このページは、「日本糖尿病学会:「健康日本21」の糖尿病対策検討委員会」が、主に医師向けに作成したスライドをリタイプしたものです。
病院で糖尿病の治療を受ける際に、“どのような手順で”、“どのような治療・指導を受けるのか”、大まかな全体像を知っておくと、病院へ行くことの怖さも少し減るでしょう。
勿論、糖尿病は怖い病気です。だからこそ「糖尿病はどんな病気なのか」「何が怖いのか」「どう克服していけば良いのか」「自分の今は、どんな状態なのか」などなど、予備知識を持って(ただし、先入観は禁物)医師に相談してみて下さい。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」と、言ったところでしょうか。
啓蒙用のスライドをリタイプしたものですから、説明不足の点は多々あると思います。順次補足を加えていこうと思います。くれぐれも「先入観」は、持たれませんように。
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糖尿病の臨床診断フロー
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糖尿病の初診時における問診で聞かれる項目
・自覚症状 (口渇、体重減少、多尿)
・20歳時の体重
・過去の最大体重
・糖尿病の家族歴
・高血圧の既往
・降圧薬の内服
・巨大児の出産歴
・妊娠中の尿糖陽性
・外食が多い
・運動習慣
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糖尿病対策推進会議が配布した 問診に関するパンフレット
「健康日本21」の糖尿病対策検討委員会作成
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糖尿病になりやすい人
・境界型といわれたことがある人
・肥満
・高血圧
・血縁に糖尿病のいる人
・運動不足
・40歳以上
・妊娠糖尿病・巨大児出産の経験者
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血糖コントロールの指標と評価
(日本糖尿病学会, 2004)
妊娠中はHbA1c 5.8%未満、空腹時血糖値 100 mg/dl未満、 食後2時間血糖値 120 mg/dl未満で低血糖なしを目標
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糖尿病が増え続けています
日本の推定糖尿病患者数(厚生労働省)
1997年 2002年 2007年
糖尿病が強く疑われる人 690 万人 740 万人 820 万人
糖尿病を否定できない人 680 万人 880 万人 1,050 万人
合 計 1,370 万人 1,620 万人 1,870 万人
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糖尿病が増えた結果
・網膜症は中途失明原因の第2位(年間 約3,000人)
・腎症は新規血液透析原因の第1位(年間15,000人以上)
・足壊疽は非外傷性下肢切断原因の第1位(年間 約3,000 人)
・糖尿病があると心筋梗塞や脳硬塞の発症率が約3倍
・糖尿病関連医療費は総医療費32兆円の約10%
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糖尿病発症の予防のために
・腹八分目に食べて
脂肪をひかえめ 多様な食品をバランスよく
・もっと歩いて
1日10分間多く
男性9,200歩、女性8,300歩以上を目標に
・肥満を減らそう
自分の適正体重を知りましょう
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糖尿病合併症を進行させないために
血糖・血圧・コレステロールの改善と禁煙を
ABCDが大切です
・A1c : HbA1c 6.5%未満
・Blood pressure : 血圧 130/80 mmHg未満
・Cholesterol : LDL-C 120 mg/dl未満
・Don’t smoke : 禁煙
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食事療法
1) エネルギー摂取量の是正
適正なエネルギー量=身体活動度 × 標準体重
・軽労働:25〜30kcal
・中労働:30〜35kcal
・重労働:35kcal〜
標準体重:22 × 身長(m) ×身長(m)
2) 動物性脂質・蔗糖や果糖の過剰摂取の是正
3) 食物繊維摂取の奨励
4) 減塩(薄味にする)
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食事療法のポイント
正しい、規則的な食習慣
・1日に3食、規則的な食事を摂ること
・脂肪は控えめに
・ドカ食い、早食いをしない
・食物を残すことを学ぶ
・大皿盛ではなく、一人分ずつ取り分けて食べる
・料理をよく味わいながら、1口20〜30回は、噛むこと
など
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1.外食の利用
・野菜のメニューを選んでから、他のメニューを加える
・つけ合せ野菜は残さない
・一品料理を避け、できるだけ定食のものを
・めん類の汁は残す
・油っこい料理はなるべく避ける
・店と料理を固定しない
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2.食物繊維の摂取
・野菜、海藻、きのこをたっぷりと
・生野菜、緑黄色野菜を毎日の食卓に
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運動療法
運動はブドウ糖、脂肪酸の利用を促進し、インスリン抵抗性を改善する効果があるので、重要である。
1)強度:自覚的に「きつい」と感じない程度
(心拍数:100〜120/min)
2)歩行運動
運動量:男性 9200歩/日
女性 8300歩/日
3)1週間に3日以上行う
注:インスリンや経口血糖降下薬(SU薬)治療者は、低血糖に注意
※特別な運動をしなくても、日常生活における身体活動量を増やす(身体を動かす、長時間座っていない、エレベーターを使わない・・・・)だけでも、長時間継続すれば効果がある
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身体活動チェックと評価
1. 運動指導後、日常生活の中で、意識的に体を動かすようにな りましたか
1.はい 2.いいえ
2. 1日の中で、外を歩く時間は合計して30分以上ありますか
1.はい 2.いいえ
1日当たり平均何分歩いていますか
( )分
3. 1回30分以上の運動を、週2回以上、6ヶ月以上実践していますか
1.はい 2.いいえ
「はい」と答えた人にお聞きします。どんな運動ですか
( )
4. 運動指導後、歩行スピードは速くなりましたか
1.はい 2.いいえ
5. 運動指導後、体力に自信がついてきましたか
1.はい 2.いいえ
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主な経口血糖降下薬の特徴
(赤字は重要な副作用)
※:血糖降下作用が強い #:血糖降下作用が中程度
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初回治療時の注意点と手順
・新たに治療を開始する患者において、初診時に、治療方針決定のために検索すべきポイントは、1)血糖値、2)体重およびその経過、3)尿ケトン体である。
・経口血糖降下薬を用いる場合も、食事・運動療法を並行して確実に行うことが重要である。
・新規に経口血糖降下薬を投与する場合は、少量から始める。通常2週間以内に来院させ、血糖値などのデータから反応性を見つつ、投与量の調節を行う。
・薬剤の追加や変更は、HbA1c6.5%未満を目指して、通常同一薬剤で2〜3ヵ月間経過をみてから行う。HbA1c8%以上の場合は薬剤の追加や変更を考慮しなければならない。
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初回治療時の注意点と手順
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インスリン療法(1)
・絶対的適応(生存のために必要)
1型糖尿病、糖尿病昏睡
重度の肝障害、腎障害
重症感染症、中等度以上の外科手術
糖尿病を合併した妊娠
・相対的適応(著明な高血糖)
空腹時血糖値が250mg/dL以上
随時血糖が350mg/dL以上
尿ケトン体陽性(+)以上
経口血糖降下薬で良好な血糖コントロールが得られない
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インスリン療法(2)
・インスリン製剤の種類
・インスリン製剤の種類(注射法)
インスリンカートリッジ製剤(ペン型注入器に装着)
インスリンプレフィルド/キット製剤
:(薬剤・注入器一体型の使い捨てタイプ)
インスリンバイアル製剤
:(100単位製剤用インスリン専用シリンジを使用)
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インスリン療法(3)
・インスリン治療の基本は健常人のインスリン変動を再現
基礎インスリン分泌+追加インスリン分泌
・インスリン投与量の変更は「責任インスリン」の増減
「責任インスリン」とは、その時点の血糖値に最も影響を及ぼしているインスリン。
・インスリン依存状態の患者では、インスリン注射をどのような場合でも中止してはいけない
・インスリン治療を開始する際は、1日の総量を体重1kgあたり0.1-0.2単位から開始、血糖値をみながら1-2単位ずつ増量
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インスリン療法(4)
・3cm離して重ならないように指導
(糖尿病療養指導士受験 ガイドブックより引用)
・血糖自己測定
インスリン治療をしている場合は、糖尿病の管理を厳格に行うために活用されている。毎食前・食後の6時点と就寝前を加えた7時点から、インスリン効果 を評価するのに必要なポイントを1日1-3回測定。
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インスリン療法(5)
・インスリン注射
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専門医との連携のタイミング
症状から見て入院が必要と判断される場合
・脱水が著明で、体重の減少が著しい
・意識障害を認める。
・高血糖(300mg/dL以上)で脱水、尿ケトン体陽性の場合
・肺炎、心筋梗塞など他の疾患を併発して重篤な症状を呈している時。
・著しく血糖値が低く、昏睡状態にあり、ブドウ糖の投与でも容易に意識が戻らない場合(通常血糖値は50mg/dl以下)。
・通院がとても困難と判断される状態。
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糖尿病合併症
・糖尿病網膜症
・糖尿病腎症
・糖尿病神経障害
・動脈硬化性疾患
冠動脈疾患
脳血管障害
下肢閉塞性動脈硬化症
・感染症
・糖尿病足病変
・歯周病
・認知症
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糖尿病網膜症
1)初診時に眼科受診指導
2)眼科医との連携
眼科受診間隔の目安(原則として眼科医の指示に従う)
正常〜単純網膜症初期 1回 / 年
単純網膜症中期以上 1回 / 3〜6ヶ月
増殖前網膜症以上 1回 / 1〜2ヶ月
3)眼科医の治療が必要な状態
増殖前網膜症、増殖網膜症、黄斑症、白内障、緑内障
急激な血糖値や血圧値の変動に注意!
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糖尿病腎症
1)早期腎症の診断
尿中アルブミン排泄量(随時尿)
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正常アルブミン尿 <30mg/gクレアチニン
微量アルブミン尿 30〜299mg/gクレアチニン(早期腎症)
顕性蛋白尿 ≧300mg/gクレアチニン(顕性腎症)
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2)顕性腎症以上は、尿蛋白量、血清クレアチニン値等で評価
3)血糖管理だけでなく血圧管理も重要
管理目標:130/80mmHg未満、顕性腎症以上では125/75mmHg未満
ACEIやARBの有用性
4)食事療法
蛋白制限(1日0.8g/kg標準体重以下)の有用性の報告あり
食塩制限(1日7g以下, 高血圧合併例は6g以下)
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糖尿病神経障害
多発性神経障害、自律神経障害、単一神経障害に大別される
1) 多発神経障害
両下肢のしびれ、じんじん・ピリピリするような疼痛 感覚低下、異常感覚をもたらす。
左右アキレス腱反射、振動覚が低下。
2) 自律神経障害
起立性低血圧、胃無力症、便通異常、無力性膀胱、
無自覚性低血糖、無痛性心筋梗塞、勃起障害
3) 単一神経障害
外眼筋麻痺、顔面神経麻痺
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糖尿病神経障害の簡易診断基準
必須項目
:以下の2項目を満たす
1. 糖尿病が存在する
2. 糖尿病神経障害以外の末梢神経障害を否定しうる
条件項目
:次の3つのうち2項目以上を満たす場合を「神経障害あり」とする
1. 糖尿病神経障害に基づくと思われる自覚症状
(両側性の足趾および足底の「しびれ」、「疼痛」、「異常感覚」のうちの いずれかの症状)
2. 両側アキレス腱反射の低下あるいは消失
3. 両側内踝振動覚低下(C128Hz音叉にて10秒以下)
糖尿病性神経障害を考える会 2002年1月改訂より改変
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糖尿病神経障害の治療
多発神経障害
アルドース還元酵素阻害薬、ビタミンB 12、疼痛に対しては、非ステロイド系消炎鎮痛薬、抗不整脈薬 (メキシレチン)、抗うつ薬など
自律神経障害
症状に応じて、血管収縮薬(塩酸ミドトリン、メチル硫酸アメジニウム)、消化管運動機能 改善薬 (ドンペリドン、クエン酸モサプリド )などを投与する。勃起障害(ED)の治療の際には虚血性 心疾患の有無を必ず確認する。
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糖尿病足病変
・ 神経障害、血管障害、外傷、感染症などが複雑に関与し て下肢に潰瘍や壊疽が生ずる。
・ 原因や悪化には神経障害による感覚鈍麻が関与している ことが多い。
・ 日常生活における、熱傷、外傷、胼胝、靴ずれなどの予 防および早期発見・早期治療が重要である。
・ 足をよく観察し、常に清潔にして、異常があればすぐに 受診するように指導する。
・ 爪の変形や白癬菌感染、潰瘍は皮膚科をはじめとする 専門医での治療が望ましい。
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糖尿病は動脈硬化性疾患発症のリスクを高める
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日本人2型糖尿病患者でも、動脈硬化性疾患、
特に冠動脈疾患の発症頻度は増加している
1)早期腎症の診断
冠動脈疾患 脳卒中
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JDCS (9年次) 8.8 7.9
(男性10.7. 女性 6.8) (男性8.5. 女性 7.0)
UKPDS 17.4/14.7 5.6/5.0
(対照群/強化治療群)
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(1000人/年あたりのイベント発症数)
<JDCS(Japan Diabetes Complication Study)医学のあゆみ 220:1275-1281,2007
UKPDS(UK Prospective Diabetes Study)Lancet 352:837-853, 1998 より引用>
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血糖コントロールと合併症発症との関連
細小血管合併症の発症は血糖コントロール状態に強く依存するが、
動脈硬化症は軽度の高血糖状態でも発症リスクが高まる
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メタボリックシンドローム
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糖尿病患者の急性心筋梗塞は、はっきりした症状がないことが多い(無症候性:非定型的)。
発症時には冠動脈に多枝病変を有するなどすでに病変の進行した例が多く、心不全、不整脈を起こしやすい。
定期的な心電図評価と共に、原因不明の血糖の悪化や従来と異なる不整脈の出現などの場合は、急性心筋虚血を疑い、心電図、心エコー、血液検査等での評価が必要である。
糖尿病は脳梗塞の独立した危険因子で、非糖尿病者の2〜4倍高頻度である。
脳血管障害では、小さな梗塞が多発する傾向があり、一過性脳虚血発作や軽い麻痺をくり返し、徐々に認知能力の低下に至る例もある。
頸動脈エコー、頭部X線CT、頭部MRI等で評価する。
動脈硬化症の予防・進展防止には、血糖のみならず血圧、脂質のコントロールが重要である。
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糖尿病を合併する高血圧の治療計画
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リスク別脂質管理目標値
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専門医への紹介
・1型糖尿病など、2型糖尿病以外が疑われる
・ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧状態など急性合併症
・インスリン治療の導入(不慣れな場合)
紹介状への記載項目
・紹介目的
・これまでの治療の経過・内容
・糖尿病合併症の検査結果
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かかりつけ医への逆紹介
・2型糖尿病で治療方針が確立し病勢が安定
・1型糖尿病の場合も安定すれば
逆紹介状への記載項目
・治療の経過・内容
・教育の内容
・糖尿病合併症の検査結果
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専門医との連携が必要な場合
ーどのような場合に専門医に紹介すべきか
・1型糖尿病(IDDM)
・糖尿病性ケトアシドーシスおよび高血糖、高浸透圧状態
・妊婦および授乳中の女性
・膵臓全摘出例
・重症の感染症、大きな外傷、中等度以上の手術
・重症の肝臓、腎障害の合併例
・食事療法、運動療法および経口剤を用いても良好なコントロールが得られない例や、その他インスリン療法が必要な症例(インスリン治療に不慣れな場合)
・治療方針がつかない場合。
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専門医との連携のタイミング
ー症状から見て入院が必要と判断される場合
・脱水が著明で、体重の減少が著しい
・意識障害を認める。
・高血糖(300mg/dL以上)で脱水、尿ケトン体陽性の場合
・肺炎、心筋梗塞など他の疾患を併発して重篤な症状を呈している時。
・著しく血糖値が低く、昏睡状態にあり、ブドウ糖の投与でも容易に意識が戻らない場合(通常血糖値は50mg/dl以下)。
・通院がとても困難と判断される状態。
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