★ 3:食事療法 ★
(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)

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◎科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
01.糖尿病診断の指針
02.糖尿病治療の目標と指針
03:食事療法
04:運動療法
05.血糖降下薬による治療(インスリンを除く)
06.インスリンによる治療
07.糖尿病網膜症の治療
08.糖尿病腎症の治療
09.糖尿病神経障害の治療
10.糖尿病足病変
11.糖尿病と歯周病
12.糖尿病大血管症
13.肥満を伴う糖尿病
14.糖尿病に合併した高血圧
15.糖尿病に合併した脂質異常症
16.妊婦の糖代謝異常
17.小児・思春期における糖尿病
18.高齢者の糖尿病(骨代謝を含む)
19.糖尿病における急性代謝失調
20.糖尿病と感染症、シックデイ
21.糖尿病と膵臓・膵島移植
22.糖尿病の治療指導・患者教育
23:2型糖尿病の発症予防
24.メタボリックシンドローム

◎糖尿病対策
 その基礎知識の為の啓蒙資料

















まず、その症状を知ろう

私は“これで”救われました

仕事の関係でどうしても休めず、ワラにもすがる思いで飲み続けました

◎ステートメント

1.食事療法について
 食事療法は、全ての糖尿病患者において治療の基本である。食事療法の実践により、血糖コントロール状態が改善される。(グレードA)

2.個別対応の食事療法
 個々人の生活習慣を尊重した個別対応の食事療法がスムーズな治療開始と継続の為に必要であり、その為には食事内容をはじめ、食事の嗜好や時間などの食習慣や身体活動量などを先ず十分に聴取する。(グレードA)

3.管理栄養士による食事指導
 実際の食事指導には、管理栄養士が当たることが血糖コントロールに有用である。(グレードB)
 管理栄養士が食品交換表を用いて栄養指導することが多いが、患者の理解が不十分な場合は、実際の食品やフードモデルなどを用いて指導する。(グレードB)

4.摂取エネルギー量の決定
 血糖値、血圧、結成資質値、身長、体重、年齢、性別、合併症の有無、エネルギー消費(身体活動)量や従来の食事摂取量などを考慮して、医師が摂取エネルギー量を決定する。肥満者や高齢者では低い方に設定するなど、症例毎の病態も考慮する。(グレードA)

 摂取エネルギー量算定の目安
  摂取エネルギー量=標準体重×身体活動量
  標準体重(kg)=[身長(m)]^2×22
  身体活動量(kcal/kg標準体重)
       =25から30  軽い労作(デスクワークが多い職種など)
        30から35  普通の労作(立ち仕事が多い職業など)
        35から   重い労作(力仕事が多い職業)

5.三大栄養素の配分
 炭水化物は指示エネルギー量の50%以上60%を超えない範囲とし、タンパク質は標準体重1kgあたり1.0から1.2g、残りを脂質で摂取する。(グレードA)
 飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸は、それぞれ、摂取エネルギー量の7%、10%以内におさめる。(グレードB)

6.食塩の摂取量
 食塩の過剰摂取は、血圧上昇による血管障害を引き起こしたり、食欲を亢進させるので食塩の摂取量を制限する。高血圧を合併したもの並びに顕性腎症以降の腎症の合併を伴うものでは6g/日未満に制限する。(グレードB)

7.食物繊維
 食物繊維摂取は血糖コントロール状態の改善に有効であり、血中脂質レベル(コレステロール、トリグリセライド)も低下させる。(グレードB)

8.食品の種類数
 食事制限によるビタミン、ミネラルの摂取不足を防ぐ為に出来るだけ多くの食品数を摂取させる。(グレードB)



◎解説


1.摂取エネルギー
 食事療法を行うことにより、血糖コントロール状態は改善する為、全ての糖尿病患者にとって食事療法は糖尿病治療の基本である。また、個々の症例の長期にわたる食習慣を加味した個別の食事指導を実践することが必要とされる。したがって、血糖値、血圧、血清脂質値、身長、体重、年齢、性別、合併症の有無やエネルギー消費(身体活動)などを十分に評価して、摂取エネルギー量を調節する必要がある。肥満者や高齢者においては、摂取エネルギー量を低く設定することが多い。個々の症例毎に適切な体重は異なり、過去の体重歴や現在のBMIを考慮した目標体重を設定し、良好な血糖コントロールを保てる体重を維持できることが重要である。摂取エネルギーの適正化は肥満の是正やインスリン抵抗性の改善に有用である。肥満者では先ず過剰なエネルギー摂取を是正し、体重の推移を確認しながらその経過により徐々に摂取エネルギーを低く設定する。過度の摂取エネルギー制限は短期的には可能だが、途中で脱落する症例を多く認める。適切な体重を維持できるエネルギー摂取を行っても血糖などのコントロールが不十分な場合には、他の治療法でコントロール目標の達成を図る。

2)炭水化物摂取
 米国、カナダ、欧州など多くの欧米のガイドラインでは炭水化物の摂取を50から60%としており、RCTを解析したEMBに基づく勧告では55から65%が提案されている。米国糖尿病協会(ADA)炭水化物を少なくとも1日130g摂取するように勧めている。日本国内におけるエビデンス(evidence:証拠、証言)は未だに乏しく、また摂取下限に関するコンセンサスが得られていない現状では60%を超えない程度とすることが望ましい。

 低炭水化物食により体重減少効果を認めた報告もあり、ADAは体重減少の目的に短期間の低炭水化物食も効果的と述べているが、1年間の体重減少効果については少なくとも低脂肪食とは同等との報告もあり、特に低炭水化物食が低脂肪食よりすぐれているとは言えない。食後高血糖の是正の為の低炭水化物食是非が問題となる。

 低炭水化物食では低脂肪食に比較し1年後のHbA1cを有意に低下させているが、症例数が少なくまた脱落率が高いため十分なエビデンスとは言えない。低炭水化物食に伴う高タンパク食は腎症の悪化を招く。低脂肪高炭水化物食(中央値:脂肪24%、炭水化物58%)は、高脂肪低炭水化物食(中央値:脂肪40%、炭水化物40%)と比較し、HbA1cには影響を与えないが、空腹時インスリン、トリグリセライドを上昇させ、HDLコレステロールを低下させた。ただし、低炭水化物食で動物性のタンパク質、脂質を中心にして摂取した場合、糖尿病の発症や総死亡、心血管イベントを増加させたと報告されている。

 一方、同様の低炭水化物食でも植物性のタンパク質、脂質の場合には、糖尿病の発症や総死亡、心血管イベントを増加させなかった。従って、炭水化物の配分だけでなく、食事に含まれるタンパク質や脂質の質も重要である。

 低炭水化物高タンパク食で動脈硬化が進展することが報告されている。そのメカニズムとして血管修復に関する血管内皮前駆細胞が減少すること、低炭水化物食でトリグリセライドは減少するが、LDLコレステロールが増加することなどが考えられている。同様に炭水化物摂取並びにタンパク質摂取をスコア化し、虚血性心疾患や脳梗塞を含む心血管疾患の発症を長期にわたり調査した大規模コホート研究において、低炭水化物高タンパク食はそのリスクを経年的に増大させる事実が明らかにされている。最近のメタアナリシスにおいても、対炭水化物食による長期的な効果は認められず、死亡リスクが増加することが示されている。

 ADAは三大栄養素の配分は個々の状況に合わせて考慮する必要があるとしており、低炭水化物食についてはその長期的効果は明らかではなく、食物繊維、ビタミン、ミネラルの不足を招く恐れがあるとし、また、食の楽しみも考慮した配分にすべきとしている。
 菓子、ジャム、清涼飲料などはショ糖を多く含み血糖値及びトリグリセライド値を上昇させるためなるべく少なくすることが望ましい。米国の成績では果物は糖尿病発症を減少させるという成績があるが、我が国では果物は皮をむいて食べることが多く、食物繊維の摂取が少なくなること、果物の品種の改良により糖分の多いものが多いことを考慮して、摂取総量には十分注意を払うように心がけ、果物は1日1単位までとする。

3)タンパク質摂取
 タンパク質の摂取に関しては、十分な科学的根拠を伴う成績に乏しいが、標準体重1kgあたり1.0から1.2gを指示することが多い。動脈硬化予防の観点から、動物性タンパク質を控えめにして、むしろ植物性タンパク質(大豆製品など)を摂取することが勧められている。糖尿病腎症を合併した例では、たんぱく制限食が有効である(詳細は「8.糖尿病腎症の治療」参照)。

4)脂肪摂取
 飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸は、それぞれ、摂取エネルギー量の7%、10%以内におさめることが推奨されている。魚油に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸[EPA( eicosapentaenic acid )やDHA( docosahexaenoic acid )など]や一価不飽和脂肪酸は、血糖値やトリグリセライド値を下げる作用もある。

5)その他の注意
 合併症の発症や進展防止には血糖のみならず血圧のコントロールも重要である。食塩の過剰摂取は、血圧上昇による血管障害を引き起こしたり、食欲を亢進させるので食塩の摂取量を制限する。高血圧を合併したもの並びに顕性腎症以降の腎症の合併を伴うものでは6g/日未満に制限する。また顕性腎症以降の腎症の合併を伴うものではカリウムも制限する(詳細は「8.糖尿病腎症の治療」参照)。

 食物繊維(1日20から25g)は食後血糖コントロールの改善に有効であり、血中脂質レベルも低下させる。野菜は1日350g以上摂取することを目標にする。炭水化物の構成などによって同じエネルギーを有する食品でも血糖の上昇が異なることが報告され、食品のGI( glycemic index )として知られている。GIの低い食品は食後の血糖上昇を抑制する効果を有する。精製された白米より玄米や雑穀米の方が望ましい。
 空腹感の強い症例には、キャベツ、海藻、コンニャク、タケノコ、キノコ類など無から低カロリーの食品が有用であるが、食物繊維としての海藻、コンニャクなどの多食によるヨード過多や低栄養には注意を要する

 アルコールの摂取に関しては、合併症の無い症例や肝疾患などを有しない血糖コントロールの良い例では必ずしも禁止する必要は無いが、スルホニル尿素薬を内服する例では低血糖を引き起こすリスクがあるばかりでなく、アルコールを多飲する例では糖尿病治療に悪影響を及ぼすので、飲酒量を自分で制限できない例では禁止することが望ましい。アルコールの摂取については、1日25g程度を上限とし、毎日は飲酒しないよう指導する。

 一般に普及している健康食品やサプリメントについては、効果に関する客観的エビデンスが乏しく、製品の管理が不十分なものもあり積極的には勧められない。
 小児、妊産婦、肥満者における食事療法は各項目に譲る(「17.小児・思春期における糖尿病」「16.妊婦の糖代謝異常」「13.肥満を伴う糖尿病」参照)。高齢者の食事療法では加齢に伴う必要な栄養所要量の変化に関する研究は少ない。高齢者の栄養状態の判定には、栄養アセスメントと体重が重要である。高齢者では味覚、嗅覚の低下、咀嚼能力の低下、唾液分泌の低下、胃酸度の低下、肝腎機能の低下などが存在することが多く、筋肉が減少したり栄養状態が不良になり易い。したがって、高齢者においては食事療法を処方する際に特に栄養不良に陥らない注意が必要である。高齢者における食事制限による栄養不良や脱水を予防する為には、同年代の高齢者が摂取する食事内容に含まれる程度の炭水化物を処方することが勧められる。

 食事療法に関する指導も糖尿病治療の基本であり、血糖管理に有効である。食事回数は1日3回を基本とし、可能な限り規則正しく摂取時刻を守り、欠食しないことが重要である。また、早朝の高血糖をさける為、夜9時以降の食事は控えることが望ましい。1日3食をなるべく均等に、よく噛んで時間をかけて摂取する。早食いは、肥満をもたらす可能性がある。また食事をする際、野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制しHbA1cを低下させ、体重も減少させることが出来る。

 50歳以上の壮年・高齢者では、咀嚼力の低下により血糖コントロールを乱す可能性がある。糖尿病妊婦では3回の食事が十分でないことも多く、2から4回の炭水化物を補食に用いて、ケトーシスを防ぐ注意が必要である。薬物療法中に昼食前あるいは夕食前に低血糖を起こす症例では、家庭での朝食、昼食に摂取する炭水化物量が極端に少ないことが原因であることもあり、薬物療法や運動量の評価に加え、食事内容の評価も同時に行うことが勧められる。また、1型糖尿病では運動中の低血糖を防ぐ為に、1から2単位の補食が勧められる。1型糖尿病で強化インスリン治療中の患者では、食事或は間食に含まれる炭水化物の量は食事毎に皮下注射されるインスリン量の重要な決定因子であるので、食事毎の炭水化物量に合わせてインスリン量を調節する必要がある。外食の際には一般に炭水化物、油脂の摂取量が多く、濃厚な味付け、野菜不足になる、偏食しやすい、などの弊害が多く、この点を考慮した摂取の工夫を指導する。冷凍食品などの加工食品も食塩・油脂の含有量が多く、成分や内容の確認が必要である。

 食事指導にあたっては、糖尿病治療指導に熟練した管理栄養士とともに行うことが望ましい。日本では栄養・食事指導に食品交換表を頻用するが、十分な理解を得られないこともある。そのような場合は、実際の食品やフードモデルなどを用いて指導する。糖尿病では、炭水化物の中でも食物繊維を除いた糖質による食後血糖値への影響が大きいことから、血糖コントロールを行う上で食事中にどれだけ糖質量が含まれているかを計算することをカーボカウントという。食事で摂取する糖質量をなるべく規則正しく一定にすることを基礎カーボカウントといい、食事で摂取する糖質量に応じてインスリン投与量を調節することを応用カーボカウントという。しかしこの方法は炭水化物、タンパク質、脂質の量の配分や質にも考慮した健康的な食事を前提にしていることを忘れてはならない。食事指導に応用カーボカウントを上手に取り入れることは、1型糖尿病患者の血糖コントロールに有用である。

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