★ 4:運動療法 ★
(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)

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◎科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
01.糖尿病診断の指針
02.糖尿病治療の目標と指針
03:食事療法
04:運動療法
05.血糖降下薬による治療(インスリンを除く)
06.インスリンによる治療
07.糖尿病網膜症の治療
08.糖尿病腎症の治療
09.糖尿病神経障害の治療
10.糖尿病足病変
11.糖尿病と歯周病
12.糖尿病大血管症
13.肥満を伴う糖尿病
14.糖尿病に合併した高血圧
15.糖尿病に合併した脂質異常症
16.妊婦の糖代謝異常
17.小児・思春期における糖尿病
18.高齢者の糖尿病(骨代謝を含む)
19.糖尿病における急性代謝失調
20.糖尿病と感染症、シックデイ
21.糖尿病と膵臓・膵島移植
22.糖尿病の治療指導・患者教育
23:2型糖尿病の発症予防
24.メタボリックシンドローム

◎糖尿病対策
 その基礎知識の為の啓蒙資料

















まず、その症状を知ろう

私は“これで”救われました

仕事の関係でどうしても休めず、ワラにもすがる思いで飲み続けました












レジスタンス運動*
ダンベル運動やストレッチ、腹筋、腕立て伏せなどの筋肉に負荷をかける運動のこと。
レジスタンス運動の主な目的は、筋肉をつけて基礎代謝量を上げることです。
◎ステートメント

1.運動療法の開始と合併症のある糖尿病患者における運動療法
 ・運動療法を開始する際には、心血管疾患の有無や程度、糖尿病慢性合併症である抹消及び自律神経障害や進行した網膜症、腎症、整形外科的疾患などを予め医学的に評価する必要がある。(グレードA)
 ・進行した合併症のある患者においても、日常における身体活動量を可能な限り低下させないようにする。(グレードA)

2.2型糖尿病患者における運動療法
 ・運動により心肺機能の改善、血糖コントロールの改善、脂質代謝の改善、血圧低下、インスリン感受性の増加が認められる。(グレードA)
 ・有酸素運動とレジスタンス運動※は、ともに血糖コントロールに有効であり、併用による効果がある。(グレードA)
 ・運動療法は、食事療法と組み合わせることにより更に高い効果が期待できる。(グレードA)

3.1型糖尿病患者における運動療法
 ・進行した合併症が無く、血糖コントロールが良好であれば、インスリン療法や補食を調整することにより、いかなる運動も可能である。(グレードB)
 ・運動の長期的な血糖コントロールへの影響は不明であるが、心血管系疾患のリスク因子を低下させ、生活の質を改善させる。(グレードB)

4.薬物治療中の糖尿病患者における運動療法
 ・インスリン治療をしている患者では血糖自己測定を行い、運動の時間や種類、量により、運動前や運動中に補食する、運動前後のインスリン量を減らす、などの調整が必要である。(グレードB)
 ・経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)では投与量を減らす必要がある場合もある。(グレードB)

5.糖尿病患者の運動療法における一般的な注意
 ・両足を良く観察し、足に合った足底全体へのクッションのある靴を用いる。(グレードB)
 ・血糖コントロールの悪い時(特に1型糖尿病・2型糖尿病患者とも尿ケトン体陽性時)は運動を行わない。(グレードB)
 ・インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療を行っている患者において、運動中および運動当日から翌日に低血糖を起こすおそれがある。特にインスリン治療中の患者では、運動前の血糖値が100mg/dl未満の場合には吸収の良い炭水化物を1から2単位摂取することが望ましい。(グレードB)
 ・日常生活の中で段階的に運動量を増やしていく。運動の前後に準備運動と整理運動を行う。(グレードB)
 ・運動到達目標としては、頻度は出来れば毎日、少なくとも週に3から5回、中程度の強度の有酸素運動を20から60分間行うことが一般的には勧められる。(グレードA)



◎解説


1.運動療法の効果

 2型糖尿病患者において心肺機能低下は、心血管障害や死亡率に関連があると考えられている。運動療法が2型糖尿病患者の心肺機能に及ぼす影響についての研究のメタアナリシスでは、平均して最大酸素摂取量の50から75%の強度の運動を1回約50分間、週に3から4回、20週間行った場合、最大酸素摂取量は有意に増加(11.8%)したと報告されている。

 さらに2型糖尿病患者はインスリン抵抗性や肥満、高血圧、脂質代謝異常を伴っている場合が多く、運動療法によってこれらの異常が改善されるとともに血糖コントロールが改善する。8週間以上の運動療法を行った研究のメタアナリシスでは、有意な体重減少は認められないにもかかわらず、HbA1cは有意に改善(約-0.6%)したと報告されている。また、HbA1c心肺機能の改善には、高い強度の運動が有効であった。糖尿病の診断から早期の患者においては、運動療法を追加しても、食事療法による改善以上の効果は見られなかったとの報告もあり、運動療法による血糖値改善効果は、糖尿病の時期やコントロール状態によっても異なる可能性があるが、一般的には、糖尿病治療において運動療法は食事療法と組み合わせることにより、更に高い効果が得られると考えられている。また、いわゆる「運動療法」のみならず、日常生活において身体活動量を増加させることも効果的であると考えられている。

 1型糖尿病患者においても運動療法により血糖値は低下するが、運動の長期的な血糖コントロールへの効果は不明である。しかしながら、糖尿病患者は心血管疾患を生じるリスクが高く、運動によりこれらのリスクを減少させると同時に、生活の質を高めるなど血糖コントロール以外の効果が期待される為、運動の強度が中程度以下の運動療法は勧められる。合併症が無く、血糖コントロールが良好であれば、インスリン療法や補食を調整することにより、いかなる運動も可能である。

 その他、糖尿病患者において運動療法は、圧反射の感受性を改善する。一方、血管内皮機能や硬さに対しては改善するとの報告が多いが、脈派伝播速度は変化しなかったとの報告もある。また、血中アディポネクチン濃度に関しては、変化しないとの報告と、増加したとの報告がある。

2.運動療法の実際

 冠動脈疾患の予防につながる運動の効果は、主としてエネルギー総消費量との関係があると言われている。運動の強度は、運動中の酸素摂取量や心拍数ならびに自覚的運動強度(Borg指数)等で表されるが、一般に中程度の運動とは、最大酸素摂取量の40から60%、あるいは個人の安静時の心拍数から最大心拍数に至るまでの50から70%ていどであるものを指し、自覚的には「ややきつい」と感じる程度である。個人の最大心拍数は段階的運動負荷試験で決定されるべき手はあるが、簡易的には“220-年齢”で推定できる。また運動強度50%の時の心拍数は“138-年齢/2”で推定できる。糖尿病神経障害を伴う場合や高齢者では脈拍数を指標に運動強度を決定することは、不正確であったり危険を伴ったりする可能性もある。中程度以上の運動療法を行う際には、運動による望ましくない副作用や循環器系合併症の多くは運動の開始時か終了時に生じる為、運動の前後に各々約5分間の準備運動ならびに整理運動を行った方が良い

 近年レジスタンス運動*の有用性が注目されている。レジスタンス運動では、筋肉量や筋力を増加させるとともにインスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールを改善する。一般的には週に2から3日、主要な筋肉群を含んだ8から10種類のレジスタンス運動を10から15回繰り返す(1セット)ことより開始し、徐々に強度やセット数を増加させていくことが推奨されている。有酸素運動単独、レジスタンス運動単独と、それらの組み合わせを比較した検討では、HbA1c低下に相加的な効果を認めたとの報告とともに、併用によりHbA1c低下において有意性が高まることも示された。レジスタンス運動の有効性が、有酸素運動に劣らないことが示され、有酸素運動の持続が困難な患者などの選択肢となる可能性がある。しかし、高強度のレジスタンス運動は、虚血性心疾患などの合併症患者などでは不適切であり、高齢者においても有効性を示すエビデンスはあるものの、実際に行うことは困難であることから、レジスタンス運動における最低限必要な強度と量が明らかにされる必要がある。

 運動療法の進め方は、個人の基礎体力、年齢、体重、健康状態などにより異なるが、最初は歩行時間を増やすなど無理のない程度に身体活動量を増加させることよりはじめ、段階的に運動量を増加させていく。さらに、患者の嗜好に合った運動を取り入れるなど、安全かつ運動の楽しさを実感できるように工夫することにより、運動療法の継続が期待される。歩数計の利用は、糖尿病患者でも身体活動を増やす有効な手段となる可能性がある。運動は実生活の中で実施可能な時間であればいつ行っても良いが、食後1から2時間頃に行うと食後の高血糖が改善する。運動療法の目標として一般的には、運動強度が中程度で持続時間が20から60分程度の有酸素運動が勧められる。また、糖尿病患者での糖代謝の改善は運動後12から72時間持続することから、少なくとも週3から5日間の運動が必要である。例えば、体重60kgの人では1日に50分程度のウォーキング(速歩)又は20分程度のジョギングを週5日行った場合、運動による消費エネルギーは1週間に約1,000kcal程度となる。2年間観察を行った研究では、運動強度(METs)と運動時間(時)の積で表される身体活動量の単位「エクササイズ」(METs・時)が週あたり10を超えたエネルギー消費の運動増加を持続することで冠動脈疾患リスクが改善し、20を行えばその他のリスクを含めて有用な運動効果が得られたとしている。有酸素運動に関しては、運動を分割した方が糖代謝を改善したとの報告もあり、持続的運動である必要は必ずしも無いと考えられる。また、連続グルコース・モニタリング(continuous glucose monitoring : CGM)による解析では、単回の運動後24時間において、高強度の運動より低強度の運動において、血糖値の低下が見られたとの報告がある。

3.合併症のある糖尿病患者における運動療法

 合併症のある糖尿病患者では、運動の強度、量、種類に配慮する必要がある。
 心血管疾患のある患者やそのリスクが高い場合は、負荷心電図などによる評価が必要である。治療が不十分な増殖網膜症では、高強度の有酸素ならびにレジスタンス運動(収縮時血圧を大幅に上げる)や頭位を下げる運動は眼圧を上げる為、また身体に衝撃の加わる運動は網膜出血のリスクを上げるため避けるべきである。糖尿病腎症患者の身体機能とQOLを向上させ、透析患者においても有効である。しかしながら、心血管事故防止などの安全性の観点からは、血圧を上げる(収縮期血圧180から200mmHg)運動は避けるべきであり、進行した腎機能障害の患者を除いては、有酸素運動を主体とした中程度までの運動が推奨されると思われる。近年、アルブミン尿を含めた蛋白尿と冠動脈疾患との関連が明らかになっており、運動開始前には心血管疾患の評価を行う必要がある。重篤な末梢神経障害を有する患者では下肢への荷重運動を控える必要があり、水泳やサイクリング、上半身運動などが勧められる。足病変に対してハイリスクの場合にはフットケアが重要である(「10.糖尿病足病変」参照)。自律神経障害を有する患者では運動中に血圧低下や上昇を起こしやすく、また運動中に突然死や無症候性心筋梗塞などの合併症を起こすおそれもある為、慎重に運動療法を進めていく。また高齢者や肥満者においては腰椎や下肢関節の整形外科的疾患を伴う場合が多く、このような場合、筋肉の増強を図るとともに、水中歩行、椅子に座って出来る運動、腰椎体操を勧めるなどの配慮が必要である(「18.高齢者の糖尿病)。

4.運動と血糖値の変化

 健常者では中程度の運動を行った場合、血中のブドウ糖は骨格筋に取り込まれて利用されるが、インスリンの低下とグルカゴンの上昇により肝臓での糖生産が増加することで血糖値はほとんど変化しない。

 2型糖尿病患者が同様の運動を行った場合、インスリンの低下が起こり難いため肝臓での糖生産は増加し難いことに加え骨格筋での糖利用は増加するので、運動中の血糖値は低下する。この血糖降下作用は、インスリンやスルホニル尿素薬で治療中の患者では増大し低血糖を起こすリスクが高まる。また、運動終了後においてもグリコーゲン合成やインスリン感受性の亢進により血糖値は低下する。そのため、インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療中の患者では、運動中のみならず運動当日から翌日にも低血糖を生じるおそれがある。したがって、速攻型あるいは超速攻型インスリンにて治療している症例では運動前のインスリン投与量を、中間型あるいは混合型インスリンにて治療している場合は朝食前のインスリン投与量を運動量に合わせて減量するなどの調節を要する。インスリン投与の調節は運動強度や運動の持続時間により異なるが、投与インスリン量を1/2から2/3に減量するのが一般的である。夕方以降に運動を行う場合には夜間低血糖のリスクが高まることに注意する。

 一方、インスリン欠乏状態で全身性の強い運動を行った場合、肝臓での糖生産の増加は正常に生じるが、糖利用が障害される為に運動中又は運動後にかえって血糖値は上昇し、ケトーシスを生じる可能性がある。1型糖尿病患者でケトーシスを起こしやすい症例などでは運動に際してインスリン投与量をあまり減らさず、補食で調整すると良い場合がある。

 インスリン療法を行っている患者では、運動誘発性の低血糖を起こすリスクがあるため、インスリン投与法、運動の時間帯、持続時間、運動量の調整が必要である。運動療法を行う時間帯については、強化インスリン療法中の1型糖尿病患者においては早朝空腹時行うのが最も低血糖が少ないとの報告もある。また、1型糖尿病患者において、持続的な中程度の運動中に間欠的な高強度の運動を挟むことで血糖値の低下が抑制されたとの報告がされた。インスリン投与の調節の標準化は難しく、患者自身の経験に基づいて調整する必要がある。そのため、運動前、運動中、運動後の血糖自己測定を行い、運動による血糖値の変化を把握し、食物摂取やインスリン療法の調整又は運動療法の変更などで患者自身が対応しなければならず、運動が血糖値に与える影響を理解する必要がある。

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