★ 5.血糖降下薬による治療 ★
(インスリンを除く)

(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)
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◎科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
01.糖尿病診断の指針
02.糖尿病治療の目標と指針
03:食事療法
04:運動療法
05.血糖降下薬による治療(インスリンを除く)
06.インスリンによる治療
07.糖尿病網膜症の治療
08.糖尿病腎症の治療
09.糖尿病神経障害の治療
10.糖尿病足病変
11.糖尿病と歯周病
12.糖尿病大血管症
13.肥満を伴う糖尿病
14.糖尿病に合併した高血圧
15.糖尿病に合併した脂質異常症
16.妊婦の糖代謝異常
17.小児・思春期における糖尿病
18.高齢者の糖尿病(骨代謝を含む)
19.糖尿病における急性代謝失調
20.糖尿病と感染症、シックデイ
21.糖尿病と膵臓・膵島移植
22.糖尿病の治療指導・患者教育
23:2型糖尿病の発症予防
24.メタボリックシンドローム

◎糖尿病対策
 その基礎知識の為の啓蒙資料









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◎ステートメント

1.血糖降下薬の適応と非適応
 ・インスリン非依存状態の糖尿病で、十分な食事療法・運動療法を2から3ヶ月行っても良好な血糖コントロールが得られない場合、血糖降下薬の適応となる。(グレードA)
 ・インスリン非依存状態の糖尿病でも、速やかな糖毒性の是正が必要と半堕すれば、食事療法・運動療法とともに、早期からのインスリンも含めた血糖降下薬が適応となりうる。(グレードA)
 ・1型糖尿病、糖尿病合併妊娠、糖尿病昏睡、重篤な感染症、全身管理が必要な外科手術時などインスリン治療の絶対的適応がある場合は、その他の血糖降下薬による治療は行ってはならない。(グレードA)

2.血糖降下薬の選択
 ・薬物の選択は、個々の薬物の作用や特性や副作用を考慮に入れながら、個々の患者の病態に応じて行う。(グレードA)
 ・薬物投与は少量から開始し、血糖コントロール状態を観察しながら必要に応じて増量する。(グレードA)

3.血糖コントロールが不十分な場合の対応
 ・1種類の血糖降下薬だけでは良好な血糖コントロール長期間維持できないことがある。(グレードA)
 ・この場合、まず食事療法・運動療法の徹底を図る。(グレードA)
 ・さらに必要であれば、作用貴女の異なる血糖降下薬の追加あるいはインスリン治療の併用、インスリン治療への変更によって血糖コントロールの改善を目指す。(グレードA)



◎解説


1.血糖降下薬の適応と非適応
 糖尿病の治療開始にあたっては、1型糖尿病、糖尿病合併妊娠、糖尿病昏睡、重篤な感染症、全身管理が必要な外科手術時などのインスリンの絶対対応がある場合は、直ちにインスリン治療を開始する。インスリン非依存状態でも、著名な高血糖、痩せ形で栄養状態の低下、ステロイド治療による高血糖、中程度以上の合併症などの相対対応がある場合はインスリン療法を考慮する。その他のインスリン非依存状態の場合は血糖降下薬の適応となるが、食事療法・運動療法には大きな血糖コントロールの改善効果があるので、2から3ヶ月は食事療法・運動療法を行い、それでも良好な血糖コントロールが得られない場合に、はじめて血糖降下薬による治療を開始するのが妥当である。ただし、食事療法・運動療法を実践しているにも関わらず血糖コントロールが改善しない場合は、早期から血糖降下薬を開始しても良い。HbA1c(NGSP)7.0%以上が続けば、血糖降下薬を考慮する。
 ADA/EASDのコンセンサスガイドラインでは2型糖尿病の診断と同時または診断後早期にメトホルミンを開始することを推奨しているが、2型糖尿病の病態やライフスタイルが異なる我が国では、実情に合致しない為、病態に応じた最適な薬剤選択を推奨している。

2.血糖降下薬の選択
 血糖降下薬は、合併症抑制のエビデンス、病態に適した作用機序、禁忌でないことなどを考慮して選択し、患者への説明と同意のもとに開始すべきである。急激な血糖コントロールに伴う生体への悪影響や薬物による副作用を最小限に抑えるために、第一選択薬を少量から開始し、血糖コントロールが不十分な場合には徐々に増量する。
 細小血管症の抑制効果については、血糖コントロールレベルに強く関連し、薬物間の差はないと考えられている。したがって、現時点では、血糖改善効果の大きいスルホニル尿素薬についてのみ発症・進展を抑制するエビデンスがあるが、他系統の薬物においても、血糖コントロールが改善すれば詳細血管症のリスクは同様に減少すると推測される。
 大血管症の抑制効果については、血糖コントロールレベルとの関連や、薬物間の差が指摘されている。肥満者に対するメトホルミン(ビグアナイド薬)の発症抑制のエビデンスがあるが、スルホニル尿素薬との併用では抑制効果は認められていない。スルホニル尿素薬は早期からの血糖コントロール改善により、大血管症を抑制することが示唆されている。アルカボース(αグルコシターゼ阻害薬)とピオグリタゾン(チアゾリジン薬)についても効果が示唆されているが、不十分との意見もある。大血管症の抑制効果については、根拠となる臨床試験の時代背景が異なるため、医療環境や治療レベルに相当の開きがある。したがって、エビデンスの評価は、簡単に比較できるものではなく、薬剤間の比較は現時点で明確とは言いがたい。経口糖尿病治療薬と発癌の関連性については、明確なエビデンスは無く、癌発症リスクは糖尿病の薬剤選択において主要な因子にはならないが、癌発症のハイリスク患者ではこれらの要素は慎重に考慮すべきである。メトホルミンは他の治療薬と比べて癌発症リスクは低いと考えられている。
 HbA1cを指標にした血糖改善効果は、欧米におけるスルホニル尿素薬、チアゾリジン薬、ビグアナイド薬がほぼ同等であり、ナテグリニド(速攻型分泌促進薬)とαグリコシダーゼ阻害薬はやや弱い。欧米人に比し、インスリン分泌低下の役割が大きい日本人においては、スルホニル尿素薬のHbA1c改善効果を期待して、汎用されている。空腹時に比べて食後高血糖の改善作用が強い血糖降下薬は、速攻型分泌促進薬、αグルコシターゼ阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬である。
 各薬物の作用機序、特徴、副作用は以下のとおりである。

1) スルホニル尿素薬(SU薬)
 膵ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌を促進させる。長期間臨床の場で使用されていて細小血管小抑制のエビデンスがあるため、年齢、体重を問わず、有用である。血糖降下作用は強く、診断されたばかりの患者、空腹時Cペプチド値が保たれている患者、インスリン治療歴の無い患者で著効を示しやすい。長期間使用していると血糖は次第に上昇してくる(二次無効)ことがあるが、他の系統の薬物より二次無効が起こりやすいかどうかについては、一定の成績が得られていない。経口血糖降下薬のなかでは最も低血糖の頻度が高い。また、食事療法・運動療法がおろそかになると体重増加が起こりやすい。スルホニル尿素薬には多くの種類があるが、作用機序・副作用・エビデンスに多少の相違が認められる。クロルプロパミドやグリベングライドは低血糖の頻度が高い。

2)ビグアナイド薬
 肝臓からのグルコース放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリンの感受性を高める作用を有している。体重増加があまり起こらず、トリグリセライドやLDLコレステロール(LDL-C)を下げる働きがある。メトホルミン塩酸塩には大血管症抑制のエビデンスがあり経済性にも優れているため、欧米では第一選択薬として推奨されている。2型糖尿病の病態、体格、摂取カロリーが違う日本では、他の系統の薬物より強く推奨する根拠は無いが、日本人においても十分な血糖改善効果は認められる。副作用として腸障害がしばしば見られる。まれに重篤な乳酸アシドーシスが起こる危険があるため、肝・腎・心・肺・副腎機能が低下している症例、大量飲酒者、栄養不良、絶食を要する外科手術前後、重篤な外傷、重傷感染症、ミトコンドリアDNA異常症、ヨード造影剤投与前は投与を中止(緊急検査時を除く)し、検査後48時間は投与を再開しない。高齢者への投与も慎重に行う。スルホニル尿素薬との併用投与では大血管症抑制効果が見られなくなり、死亡率が高くなるという報告がある。一方、日本人を含む観察研究の結果では死亡率低下を示す報告もある。
 なお、2010年に高用量(--2,250mg/日)まで使えるメトホルミン塩酸塩(メトグルコ)が承認された。その後の1年間で、乳酸アシドーシスの報告が続発し、それらのほとんどが高齢者あるいは透析感受を含む腎不全の進行例であった。そのため添付書の改訂がなされた。現行の適応基準を謝らない限り、大きな問題とはならないと思われる。

3)αグルコシターゼ阻害薬
 αグルコシターゼ阻害薬は腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせる。食後の高血糖・高インスリン血症を押さえる効果がある。単独投与でのHbA1cや空腹時血糖の改善効果は他の薬物に比べて小さいが、ユニークな作用機序を有しているため他の薬物との併用に適している。アルカボースによる大血管症抑制の効果を示唆する報告もある。低血糖時にはブドウ糖で対処する。毎食直前の投与が必要であり、服薬コンプライアンスの不良に注意する。副作用して放屁や下痢がしばしば見られる。まれに重篤な肝障害が起こることがある。

4)チアゾリジン薬
 末梢組織でのインスリンの感受性を高め、肝臓からのグルコース放出を抑制する。女性、高インスリン血症のある場合、血糖改善効果は大きい。インスリン治療導入抑制効果も認められている。また、脂質プロファイルの改善効果、とりわけHDLコレステロール(HDL-C)値を上昇させる効果も有している。ピオグリタゾン塩酸塩はトリグリセライド値を下げるが、日本で未承認のロシグリタゾンに関しては大血管症の二次予防効果とともに動脈硬化進展抑制の効果が示唆されているが、日本人を対象としてRCTでは、大血管症の一次予防効果は認められなかった。ロシグリタゾンに関しては大血管症を抑制するエビデンスは無い。ピオグリタゾン塩酸塩とロシグリタゾンのエビデンスの差の一部は脂質代謝への作用の違いによるものと考えられるが、詳細は不明である。副作用として体液貯留作用と脂肪細胞の分化を促進する作用があるため、体重がしばしば増加する。ときに浮腫、黄斑浮腫、貧血、心不全、骨折をきたすことがあるため十分注意しながら投与すべきである。心不全またはその既往、重篤な肝・腎機能障害がある場合は投与忌避である。さらにピオグリタゾン塩酸塩高用量の長期使用で膀胱癌発症率が高くなる可能性が示唆されており、膀胱癌治療中は投与を避けること。既往者への使用にあたっては、慎重にリスク評価を行い投与の可否を判断すべきである。

5)速攻型インスリン分泌促進薬
 スルホニル尿素薬と同様の機序でインスリン分泌を促進するが、効果がより速やかに起こり、また短時間で消失する。食後高血糖が見られる患者に特に適した薬物である。日本ではテナグリニドとミチグリニドが使用されてきたが、2011年からはレパグリニドも使用可能となった。海外では増量によってスルホニル尿素薬と同等のHbA1c低下効果を示すとの報告がある。日本でのナテグリニドとの比較試験において、HbA1c低下効果はレパグリニドが有意に勝っていた。食後血糖改善に加えて食前血糖の低下効果が寄与すると考えられている。さらに本薬はメトホルミンと同等の大血管症の一次・二次予防効果を持つことが示唆されている。副作用として低血糖が起こりうるが、スルホニル尿素薬より頻度が少ない。

6)DPP-4阻害薬
 日本では2009年にシタグリプチン、2010年にビルダグリブチン、アログリブチン、2011年にリナグリプチン、2012年にテネリグリプチン、アナグリブチンが承認された。経口薬であり、GLP-1受容体作動薬と同様に血糖値に依存して食後のインスリン分泌を促進する。空腹時および食後高血糖を改善する。単独投与では低血糖のリスクは極めて少ない。ただし、スルホニル尿素薬のとの併用で重篤な低血糖が生じるリスクがあるので、スルホニル尿素薬と併用する場合はスルホニル尿素薬の減量を検討する必要がある(「19.糖尿病における急性代謝失調」も参照)。プラセボ群と比較して体重の変化や重篤な低血糖の発生に有意差はなかったとする報告とともに、最近のメタアナリシスの結果は体重の軽度増加を示唆している。一方、国内臨床試験では報告によって異なるものの、体重を増加させ難く、低血糖の発生リスクは低い。胆汁排泄型のリナグリプチンやテネリグリプチンは薬物動態にさほど影響を受けないため透析を含めて腎機能障害時の用法、用量の変更は必要ない。しかし、その他の薬剤は腎排泄型のため、腎機能障害のある患者では排泄が遅延し、血中濃度が上昇するおそれがあり、何らかの配慮が必要になる。すなわち腎機能障害では、中等度以上でビルダグリプチン、アログリプチンが慎重投与であり、重度ではアナグリプチンも慎重投与となっている。また、重度の腎機能障害ではシダグリプチン投与は禁忌である。アログリプチンやアナグリプチンは減量する。ビルダグリプチンは未変化隊の腎排泄が少ないが、50mg1日1回朝に投与するなど、慎重に投与することが必要である。一部の薬剤ではインスリンとの併用による有用性が報告されているが、併用により低血糖のリスクが増加するおそれがあるため、インスリン製剤の減量を検討する必要がある。最近のメタアナリシスでは、6ヶ月から2年間の使用期間において、癌、膵炎、心疾患の発症リスクの増大は認めていない。
 しかし、合併症に対する長期予後の成績はまだなく、長期投与における安全性は確立されていない。

7)GLP-1受容体作動薬
 日本では2010年にリラグルチド、2011年にエキセナチド、2012年に徐放型エキセナチド製剤(1回注/週)であるビデュリオンが承認された。注射製剤であり、DPP-4阻害薬と同様に血糖値に依存して食後のインスリン分泌を促進する。空腹時および食後高血糖を改善するが、単独投与では低血糖のリスクは少ない。インスリン分泌が低下している場合には高血糖を呈するリスクがあるため、インスリン依存状態にある症例には適さない。またスルホニル尿素薬との併用で重篤な低血糖が生ずるリスクがあるので、スルホニル尿素薬と併用する場合はスルホニル尿素薬の減量を検討する必要がある(「19.糖尿病における急性代謝失調」も参照)。臨床試験ではプラセボ群またはスルホニル尿素薬と比較して、HbA1c改善および体重増加の抑制も期待される。副作用として消化器症状がしばしば認められる。胃腸障害の発現を軽減するため、低容量より投与を開始し、用量の斬増を行う。急性膵炎のリスクを増大させるとの報告もあるが、異論もあり、見解の一致を見ていない。合併症に対する長期予後の成績はまだなく、長期投与における安全性は確立されていない。

3.血糖降下薬の併用
 血糖降下薬の単独投与で良好な血糖コントロールを得られた患者でも、次第に血糖コントロールが悪化する場合が多い。食事療法・運動療法がおろそかになれば血糖降下薬の効果は低下するので、血糖降下薬開始後も、食事療法・運動療法の実践状況に常に注意を払う必要がある。また、併発疾患や併用薬によっても血糖コントロールが悪化することがあるので、注意が必要である。
 第一選択薬の単独投与によってもHbA1c(NGSP)7.0%以上が続く場合は、第一選択薬の増量、より血糖改善効果の強い血糖降下薬への変更、作用機序の異なる血糖降下薬の併用を考慮する。どの方法が最善かについてのエビデンスはない。作用機序の異なる血糖降下薬の併用は、ほとんどの組み合わせで血糖コントロールの改善効果が認められる。海外では汎用される用量を組み合わせた配合薬が多用されているが、我が国でも数種類の配合薬が使用可能である。服薬アドヒアランス向上の利点がある。3種類以上の血糖降下薬の併用やインスリン製剤との併用も血糖コントロール改善効果があり、良好な血糖コントロールが達成できれば、細小血管症抑制効果が期待できる。ただし、大血管症が抑制されるというエビデンスはまだ不十分である。スルホニル尿素薬とメトホルミンとの併用により死亡率が上昇するとの懸念は、一定の成績が得られていない。
 血糖降下薬の併用によっても血糖コントロールが不十分な場合、基礎インスリンの追加投与や強化インスリン療法への変更を行えば、より確実な血糖改善効果が期待できる。血糖コントロールが悪いまま漫然と同じ血糖降下薬治療を続けてはならない。

4.耐糖能異常における血糖降下薬の効果
 耐糖能障害(impaired glucose tolerance : IGT)を対象に、メトホルミン、αグルコシターゼ阻害薬、チアゾリジン薬を投与し、糖尿病への進展を抑えたとの報告がある。αグルコシターゼ阻害薬は大血管症を抑制することも示唆されている。しかし、速攻型インスリン分泌促進薬のナテグリニドIGTから糖尿病への進展および大血管症の発症を予防できなかった。2099年に食事療法・運動療法で改善されず、高血圧症・脂質異常症・肥満・2親等以内の糖尿病家族歴のいずれかを有する耐糖能異常におけるボグリボースの使用が承認された。しかし、医療経済的な利点が明確ではないことなどから、現時点では耐糖能異常者への血糖降下薬の使用は強く推奨するレベルにはなく、症例に応じて判断すべきである。

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