★ 6.インスリンによる治療 ★
(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)
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◎科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
01.糖尿病診断の指針
02.糖尿病治療の目標と指針
03:食事療法
04:運動療法
05.血糖降下薬による治療(インスリンを除く)
06.インスリンによる治療
07.糖尿病網膜症の治療
08.糖尿病腎症の治療
09.糖尿病神経障害の治療
10.糖尿病足病変
11.糖尿病と歯周病
12.糖尿病大血管症
13.肥満を伴う糖尿病
14.糖尿病に合併した高血圧
15.糖尿病に合併した脂質異常症
16.妊婦の糖代謝異常
17.小児・思春期における糖尿病
18.高齢者の糖尿病(骨代謝を含む)
19.糖尿病における急性代謝失調
20.糖尿病と感染症、シックデイ
21.糖尿病と膵臓・膵島移植
22.糖尿病の治療指導・患者教育
23:2型糖尿病の発症予防
24.メタボリックシンドローム

◎糖尿病対策
 その基礎知識の為の啓蒙資料









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◎ステートメント

1.インスリン療法の適応
 ・1型糖尿病、糖尿病昏睡、(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群)、糖尿病合併妊娠ではインスリンの使用が絶対適応となる。重篤な感染症、全身管理が必要な外科手術時もインスリンの使用が勧められる。(グレードA)

2.インスリン療法のリスク
 ・インスリン投与によって低血糖、あるいは症例により糖尿病網膜症、神経障害の増悪を認めることがある。また、長期的リスクとして体重増加などにも注意が必要である。(グレードA)

3.1型糖尿病における強化インスリン療法と合併症
 ・1型糖尿病では、至適血糖コントロールを目指すため、インスリン頻回注射法(3から4回/日)、またはCSII( continuous subcutaneous insulin infusion )が必要となる。(グレードA)
 ・これらと血糖自己測定を併用したいわゆる強化インスリン療法は、1型糖尿病において、糖尿病小血管症(網膜症、腎症、神経障害)の予防、進展抑制に有効である。また、大血管症(虚血性心疾患、脳血管障害、末梢血管障害)の進展抑制にも有効である。(グレードA)

4.2型糖尿病とインスリン療法
 ・2型糖尿病の細小血管症の予防・進展抑制にも厳格な血糖コントロールが有効であり、食事療法・運動療法および経口血糖降下薬治療でも目標達成が出来ない場合は、インスリン治療を行う。(グレードA)
 ・軽症例では中間型あるいは持続型溶解インスリン1回注射、あるいは混合型インスリンの朝・夕2回注射でもよい血糖コントロールが得られる場合があるが、中等症以上では頻回注射による強化インスリン療法を含めたインスリン治療を行う。(グレードA)

5.インスリン製剤と経口血糖降下薬の併用
 ・2型糖尿病の治療において、インスリン製剤と経口血糖降下薬(スルホニル尿素薬、ビグアナイド薬、αグルコシターゼ阻害薬、インスリン抵抗性改善薬、DPP-4阻害薬)を併用することで血糖コントロールが改善したり、インスリン使用量を減量できるが、長期予後に対する有用性についてはまだ十分評価されていない。(グレードB)



◎解説


1.インスリン療法の適応
 インスリン療法の絶対的適応としては、次の病態がある。
 1.1型糖尿病
 2.糖尿病昏睡(糖尿病ケトアシドーシス昏睡、高浸透圧高血糖症候群)
 3.重傷感染症の併発、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例など)の際
 4.糖尿病合併妊娠(妊娠糖尿病で、食事療法だけでは良好な血糖コントロールが得られない場合も含む)
 
 また、インスリン療法の相対的適応としては、次の病態がある
 1.著名な高血糖(たとえば、空腹時血糖250mg/dl以上、随時血糖350mg/dL以上)を認める場合や、ケトーシス(尿ケトン体陽性など)傾向を認める場合。
 2.経口血糖降下薬療法では、良好な血糖コントロールが得られない場合(スルホニル尿素薬の一時無効、二次無効など)
 3.重症の肝障害、腎症患を有する例で、食事療法でのコントロールが不十分な場合はインスリン治療が望ましい。

2.インスリン療法のリスク
 インスリン療法のリスクとしては、まず低血糖があげられる。強化インスリン療法により血糖コントロールが良好になるのと比例して、重傷低血糖が多くなることをDCCT( Diabetes Control and Comlications Trial )は報告している。これを予防するには、低血糖に対する適切な処置や、血糖自己測定による効果的な予防などの患者教育が必要である。また、強化インスリン療法により急に血糖コントロールを行った際、網膜症増悪や神経障害の悪化を認めることがある。さらに適切に食事療法が行われていない場合の体重増加も問題となる。インスリン療法は、糖尿病でインスリンが不足していることに対しそれを補う治療であり、生理的な治療法であるが、内因性のインスリンは脾臓から分泌され、門脈を通ってます゜肝臓で作用するのに対し、皮下注射したインスリンは、抹消の毛細血管より全身循環に入っていくので、その点は生理的なインスリン作用とは異なることを理解する必要がある。
 肥満や高齢者糖尿病患者に対し、食事療法・運動療法や経口薬による治療の効果を検討せずに、インスリン治療を導入することには慎重でありたい。あくまでも、インスリン作用不足に対する補充療法であることを踏まえ、個々の症例に則した、適切な治療法が選択されるべきである。一方、血糖コントロールが不十分な状態で無為に時間を過ごすことは避け、適応となる場合はインスリン療法をなるべく早く導入すべきである。不良なコントロールにおかれた期間の“ metabolic memory ”が、その後の合併症の進行に影響するからである。インスリンの他の副作用としては、抗インスリン抗体によるインスリン抵抗性、インスリンアレルギー、インスリン浮腫の他、注射局所の リポジストロフィーなどが起こることがある。

3.インスリン製剤の特徴
 インスリン製剤は、その作用時間および作用様式から、速効型インスリン製剤、中間型インスリン製剤、(NPH製剤)および中間型と速効型インスリンを様々な割合で組み合わせた混合型インスリン製剤、さらに最近ではインスリンアナログとして超速効型インスリン(リスプロ、アスパルト、グルリジン)、超速効型インスリンの混合型製剤(リスプロ混合製剤、二相性プロタミン結晶性インスリンアナログ水性懸濁製剤)、および持功型溶解インスリン(グラルギン、デテミル、デグルデク)が使用されている。
 リスプロやアスパルト、グルリジンなどの超速効型インスリンは吸収が速く、生理的なインスリン分泌動態により近い効果が期待できる。速効型ヒトインスリンに比較して食後血糖がより低下するが、HbA1cはやや改善するかほぼ同等である。また食事の直前に注射できる利点があり、夜間の低血糖の頻度は低くQOLの向上にも有効である。CSIIでの使用も速効型ヒトインスリンと同等かより有効である。リスプロやアスパルトルなどの超速効型インスリンの混合製剤でも従来のヒトインスリンの混合製剤と比較して食後血糖がより低下したにもかかわらず、低血糖の頻度は変わらないとされている。
 持功型溶解インスリンであるグラルギン、デテミル、デグルデクは、皮下からの吸収が遅く、長時間安定した血中インスリン濃度を保つことが出来るため、インスリンの基礎分泌を補充する製剤として使用される。1型糖尿病、2型糖尿病において、夜間低血糖の低減や血糖コントロールの改善効果が報告されている。2009年6月、欧州から「インスリングラルギンの投与により癌の発生リスクが高まる」という数編の論文が発表されたが、その後反論も報告されており、明確な結論は出ていない。日本糖尿病学会、米国糖尿病協会、国際糖尿病連合から「グラルギンと癌の相関性を未だ結論づけることはできず、結論までは更なる研究が必要である。患者に対しては過剰反応することなく医師と十分に相談して対応するように」という勧告が行われている。

4.1型糖尿病におけるインスリン療法
 1型糖尿病におけるインスリン療法は、インスリンの生理的分泌パターンをシミュレートした食(直)前の速効型(あるいは超速効型)と眠前の中間型あるいは持功型溶解インスリンの使用がスタンダードである。これに血糖自己測定や患者教育を行うことにより厳格な血糖制御が可能となり、細小血管症の予防、進展の抑制に効果が認められる。強化インスリン療法により細小血管症の発症、および進展の抑制や初期の大血管症の進展抑制がもたらされ、DCCT後の長期観察において、重篤な心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、致死的な心血管イベント)の発症抑制が認められた。

5.2型糖尿病におけるインスリン療法
 2型糖尿病においても血糖コントロールを良好に保つことにより、合併症、死亡リスクが減少することが明らかになった。さらに、強化インスリン療法を含めたインスリン療法による厳格な血糖コントロールによって糖尿病合併症を予防しうることが明らかとなった。そのためには、食事療法・運動療法を基本とする生活習慣の改善はもとより、積極的な薬物療法の介入が重要と考えられる。新たに2型糖尿病と診断された患者に対して、強化インスリン療法を早期から行う方が、経口血糖降下薬で治療するよりもβ細胞機能が温存されるとする成績もあるが、低血糖や体重増加などのリスクとの比較も必要である。経口血糖降下薬の治療で血糖コントロールが悪い場合は、生活習慣の点検・是正の後インスリンの導入を検討する。この場合、2型糖尿病ではインスリン分泌能が多少残存している場合が多く、各食(直)前の速効型(あるいは超速効型)もしくは、就寝前中間型ないし持功型溶解インスリン注射や夕食前混合型インスリン注射、各食(直)前速効型(あるいは超速効型)+就寝前中間型(あるいは持功型溶解)インスリン注射まで幅広い選択肢がある。とりわけスルホニル尿素薬二次無効例でも、夕食前に混合型インスリン、または就寝前に中間型インスリンもしくは持功型溶解インスリンを追加することによって良好な血糖コントロールが得られる可能性がある。就寝前のインスリン注射は、少なくとも日中の高インスリン血症を招来させるリスクが少ない。開始時の1日のインスリン投与量は、0.1から0.2単位/体重kg程度である。ただし、中間型・持功型溶解インスリン注射のタイミングは症例により異なる。
 このような経口血糖降下薬とインスリン療法の作用については、導入時にインスリン単剤に切り替えるよりは、経口血糖降下薬に加えて夕食前または就寝前にインスリンを追加した方が、良好な血糖コントロールが得られるとの報告がある。この場合インスリン併用による低血糖の発現、体重増加傾向などを考慮し、その使用に注意する必要がある。日中に追加インスリン補充を行う処方と就寝前に基礎インスリン補充を行う処方を比較すると、前者の方が低血糖や体重増加のリスクが高いと報告されているが、スルホニル尿素薬を中止し、さらに強化インスリン療法へ移行することで最終的にはいずれの処方においても同等のHbA1cを達成することが可能となる。

6.インスリン治療患者におけるシックデイ
 インスリン治療を行っている患者が感染症などて食事がとれない場合(シックデイ)はインスリン拮抗ホルモンの影響で食事料が少なくてもむしろ血糖値は上昇する場合が多いため、インスリン中断は避け、水分摂取とインスリン量を調節しながらの継続が重要である。シックデイ・ルールとして、次の点に留意する。
  1)できるだけ摂取しやすいかたち(おかゆ、麺類、果汁など)でエネルギー、炭水化物を補給する。
  2)水分は少なくとも 1,000mL/日以上は摂る。
  3)血糖自己測定を行い、できれば尿ケトン体測定も行う。
  4)食事ができないからといってインスリン量を極端に減らしたり中止してはいけない。

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